こけし工人に聞いた、仕事の魅力

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東北地方の温泉街で、江戸時代から100年以上作り続けられてきた「伝統こけし」。
元は農閑期の湯治客向けの土産品だったが、現在では歴史ある伝統工芸品として
広く知られるようになった。
産地によって形状や絵柄にさまざまな特徴があり、遠刈田、鳴子、弥治郎、
作並、土湯、肘折、山形、蔵王、木地山、南部、津軽の11系統に分けられる。
 
今回、お話を伺ったのは、遠刈田系こけし工人(こうじん)の小笠原義雄さん。
宮城県刈田郡蔵王町遠刈田の地に生まれ、16歳のときからこけし作りの技を学び、
以来63年間、工人として活動してきた。
現在は仙台市内に工房を構えて、制作を続けている。
 
「小さい頃からものづくりが好きでね。
 温泉場でほかの仕事があんまりなかったということもあって、
 こけし作りに入ったんだけど、正解だったね。
 今までずっとそれで暮らしてこられたからね」
 
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中学校を出てすぐ弟子入りし、現在まで工人を続けている
 
5年の修行を経て一人前になってから、ずっと工人として腕一本で生きてきたという。
その仕事内容とやりがいについて伺った。
 
 
技術と心の粋を凝らしたこけし作り
こけしはろくろで木材を回転させ、削ることによって作られる
だが工人の仕事は、木材を削る前の段階から始まっている。
 
「最初は道具作りだね。自分で火を起こして、鍛冶仕事だ。
 ふいごで火を起こして、鉄を金敷の上で叩く。
 既に打ったものを自分で使いやすいように曲げたり、叩いて直したりもする」
 
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 左:自宅の庭で鍛冶仕事をする小笠原工人 右:ふいごで火を起こし、鉄を熱する
 
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左:自分で使いやすいように道具を微調整 右:工房の壁には自作の道具が並ぶ
 
こけし作りに使う道具は特殊なもので、市販されていないため、自分で作るしかない。
ゆえに、道具を作れない工人はいないのだそうだ。
 
「道具は大切だね。道具が悪いと、きれいな品物はできあがんないからね」
 
木材もあらかじめ準備しておく必要がある。
こけし作りには、主にミズキが使われる。
ほかにはイタヤ、ケヤキ、エンジュ、ツバキ、サクラなども使用されることがある。
これらの木は、山から切り出したあと、皮を剥いて半年ほど屋外で乾かす。
その後、さらに半年ほど屋内で陰干しして、ようやく使えるようになる。
 
いざこけしを作るときは、電動の丸のこを使って、木材を必要なサイズに切り出す。
「木取り」の作業だ。
 
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危険を伴う、丸のこでの「木取り」。写真は端材での試し切り
 
木取りはたいへん危険な作業であるため、弟子をとっても、
相当に慣れるまでは任せられないのだそうだ。
実際に、この作業で指を切断した工人もいたという。
 
「車の運転と同じだよ。
 免許を取ったばかりの頃は緊張して事故を起こさないけど、
 慣れてきた頃が危ないんだ」
 
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こけしの頭部と胴部をそれぞれ、八角形に木取りする
 
木取りが終わったら、いよいよろくろでの作業だ。
まず木材をろくろに立てる(金槌で叩いて底面を打ち付ける)。
きれいに立てられないと歪んだ回転になり、木材が均等に削れなくなってしまう。
素人がやるといくらやってもきちんと立たないのだが、
工人はものの数秒ほどでさっと立ててしまう。
 
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胴部の打ち付けの様子。まっすぐ立てないことには始まらない
 
ろくろを回し始めたら、まず「荒挽き」を行う。
かんなを使って八角形の木材の表面を削り、こけしの形に近づける工程だ。
 
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頭部の荒挽き。木材があっという間にこけしの形になっていく
 
刃を当てたところから音を立てて木屑が飛び、
ごつごつした木材がどんどん滑らかになっていく。
工人がやっていると、とても簡単そうに見えるのだが、
実際にやってみるとこれがひどく難しい。
 
試しに筆者がやってみたところ、
かんなの刃がひっかかって思うように削れず、
いつまで経ってもこけしの形に近づかなかった。
また、かんなを支えるのに力を入れていたため、
5分ぐらいやっただけで右手が重くなってしまった。
小笠原工人曰く、これを1時間も続けると筋肉痛になるという。
 
驚いたことに、工人自身は作業をしていてもまったく疲れないのだそうだ。
 
「力は全然、入れてないね。刃の当て方であんまり力がいらないんだね」
 
次に、荒挽きした木材を「仕上げ挽き」する。
ばんかきという道具で、いっそう滑らかに削る作業だ。
 
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頭部の仕上げ挽き。表面がより細かく削られる
 
仕上げ挽きのあとは、
頭部・胴部それぞれをトクサやサンドペーパーで「仕上げ磨き」する。
 
頭部と胴部を打ち付けたあとは「描彩」だ。
多様な筆を使い分けて、こけしの顔や模様を描いていく。
染料は墨や紅花などだ。
 
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こけしのサイズや描く箇所によって筆を使い分ける
 
「顔はこけしの命。気持ちで描くから、心が顔に現れるね。
 どういうわけだか、こけしは作った工人に似てるんだよ。
 そのときどきの気持ちでも、ある程度変わる。
 あと、10年ぐらい経つと自然と顔が変わるからね。
 本人は変わったつもりでないんだけど、変わるんだね」
 
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小笠原工人と工人作のこけし。そういえばどことなく似ている?
 
技術の粋を凝らし、心を込めて作るこけしには、知らず知らずのうちに
工人自身が乗り移るということなのかもしれない。
 
工房以外にも、デパートでのこけし作り実演や小学校での絵付け指導など、
さまざまな場所で描彩を行う機会があるという。
 
「デパートなんかで5,6人ぐらいに見られてると、やっぱり緊張するね。
 小学校なんかだと、上手に描こうってんでないから、楽しんで描ける」
 
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小学校での絵付け指導。子どもたちに大人気
 
 
生きがいは、お客さんに買ってもらえること
毎年開催される全日本こけしコンクールで、
最高の賞である内閣総理大臣賞を2回も受賞している小笠原工人。
伝統こけし工人として栄誉ある立場にありながらも、
作るものは既存のこけしに留まらない。
 
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左:内閣総理大臣賞受賞作のこけし 右:中に子どもがいるこけしは結婚祝い等に人気
 
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加工が難しい黒檀製のミニチュア茶器セット。全体で幅15cmほどしかなく、精緻な技が光る
 
工人自ら、いろいろな新しいものを考案して作っているというのだという。
 
「伝統こけしの型は型で守ってる。ただ、それだけじゃ売れないからね。
 いろいろな人が買いやすいものも作らないと。
 新しいことを考えてやるのは楽しいね」
 
さまざまな木地物を作っているためか、
いろいろな人から「こんなものを作ってほしい」と頼まれるという。
以前には手榴弾愛好家の方から、
手榴弾型こけしの制作を相談されたこともあったそうだ。
確かな腕と、新しいものに次々と挑戦していく柔軟さがあるからこそ、
多くの人から頼られるのだろう。
 
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震災後に作られた、地震で倒れると明かりがつく「明かりこけし」
 
「こけし屋はつらい仕事だから、だいたい苦労が7で、喜びは3ぐらいだね。
 でもやっぱり、ものを作るのが好きだから、いやだとは思わないんだね」
 
自らの仕事についてこう語る小笠原工人。では、その喜びはどこにあるのだろうか。
 
「何十年やってたって、上手に作ろうと思っても、うまくいかないときはある。
 それがうまくいったときにはやりがいが出てくるね。
 お客さんが『ああ、このこけしはいい顔してる』と言って、
 喜んで買ってくれたときには、生きがいを感じるね」
 
お客さんの喜び、満足が、工人にとって何よりの喜びなのだそうだ。
最後に、仕事をしていく上でのコツについて伺った。
 
「仕事は楽しんでやらないとね。
 なんでもそうだけど、イヤイヤやったんではいい仕事はできないからね」
 
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慈しみに満ちた手つきで、商品のこけしを包む
 
 
 
<<富井 オーマ>>
 

 


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